by Dave Etchells

posted Tuesday, February 26, 2019 at 4:22 AM EST


 
 

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簡単な背景の紹介

当社サイト読者の皆さんに、2017年「Camera of the Year(COTY)」アワードに先立ち、今から1年ちょっと前に実施した基本的な耐候性試験をご紹介したいと思います。この試験は実際、かなり基本的なものですが、それでも、カメラが悪天候の中での撮影中に遭遇するであろう条件を再現することを目的としています。雨と霧の両方を再現するために、試験に使用した4台のカメラすべてを同じ条件下にさらしました。

非常に明確な結果が得られたものの、第一回目となるこの挑戦には多くの制限がつきまといました。まず、水の量は「典型的な悪天候のそれと同等であろう」という推定に基づいています。あまり再現性がなく、得られた結果は同時に試験に使用した4台の特定のカメラにおいてのみ有効だと言えます。

今後は、より管理の行き届いた、そして再現性のあるアプローチを考案しなければ。そんな思いになりました。また「合格か不合格か」というよりも定量的な検査を可能にする手法にも意識を向けることに。つまり、カメラが誤動作したか、まったく動作しなくなったか…といった単純な指標の一歩先です。

上記のような課題を胸に…同年2月下旬には、カメラと写真のワールドプレミアショー「CP+2018」のために日本を訪れたことから、その機会を使い、数々の業界を代表する機械設計技術者の方々(様々な会社に勤務されている面々)とお会いしました。情報量満載で、会議の中身は濃密の一言。貴重なお時間を割いて下さった皆さんに、この場を借りて感謝申し上げます!

各社におけるカメラの試験方法や、社内で採用されている耐候性試験の基準を学びましたが、会話の大部分には非常に厳格な機密保持の取り決めが適用されるので、ここでお伝えすることはできません。(唯一の例外は、オリンパスの方々でした。お伝え頂いた内容を自由に公開しても問題なしとのことです。詳細は後述します!)

1つ確かなことがあります。それはメーカー間に共通の基準が存在しないということ。それどころか、一社内での各モデルの枠を超えた共通の基準すらありませんでした。(考えてみれば後者は理にかなっています。メーカーはさまざまな異なる用途を想定して、それぞれのカメラを設計しているので、モデルごとに試験のレベルや、期待される耐性が異なるのは自然な話です)

そんな中で、お話を聞かせて頂いた全メーカーの方々について、ある共通項も見つかりました。それは「耐候性についてカメラとレンズをテストし認証を付与」することのできる外部機関の必要性です。皆さん、これに関心を示しています。有用な規格がないことに加え、こんなことも言えます。メーカーが一定レベルの耐水性を宣伝すると、「検証するのが非常に困難な多くのワランティ・クレームのリスクにさらされる可能性」があります。現在、ほとんどのカメラに付帯する保証において、水による損傷は対象外とされています。そのため故障が保証の対象内であるかどうか判断するのは非常に簡単です。メーカーがカメラ内部に水が入ったという証拠を見つければ、その瞬間、保証対象外であることが決まります。「このカメラは耐候性あり」と宣伝されていても、そのカメラがどれだけの量の水にさらされ試験されたのかを判断する方法はありません。雨が降った後に水がカメラに入ったのか、それとも川に浸った後に水が入ったのか、知るすべがないのです。

ここまでの懸念を考えると、(IRのような)第三者が代わりに耐候性を試験し報告することの価値は明らかです。確かに試験においては、ある特定の条件下でカメラが(シミュレーションとして用意された)雨にさらされるので、実世界での撮影となると、その影響はケースバイケースです。しかしこれは「それぞれのカメラがどれだけの耐候性を誇るのか」比較するための一貫した基準ともなり得ます。

この1年は、IRの全社員にとって(特に私自身が痛感していますが…)多忙を極めるものでした。つい最近まで「CP+2018」後の会議の結果を反芻ことすらできなかったほどです。とは言え、IRがご紹介する耐候性試験の「バージョン1.0」とも言える段階まで進むことができました。1年前に比べると大きな飛躍です。

 
雨の降る中で「非耐候性カメラ」を使用することは場合によっては可能ですが、雨に対する予防策が写真撮影の邪魔になることも。一方で耐候性のあるカメラは素晴らしいものですが、一体どのようにカメラの耐候性を伺い知ることができるでしょうか?

耐候性試験の基準が必要とされる理由とは?

「あくまでも形式的に」ですが…この問いから始めたいと思います。もちろん、弊社記事の読者の方々は、おおかたこれについての明確な答えをお持ちでしょう。

ほとんどすべてのカメラメーカーは、少なくとも一部のモデルについてある程度の「耐候性」を主張しています。しかし、ある特定のカメラに「耐候性」があると言ったところで、実際には何も意味がありません。というのも、そのような主張を評価するための基準が存在しないからです。例えばこのようになります。メーカーAの言う「耐候性」は「5分間の軽い霧に耐えられる」を意味し、一方で、メーカーBの同様の文言は「1時間の激しい豪雨に耐えられる」を意味するかもしれません。もちろんメーカーAのカメラは裸の回路基板のようなカメラと比較すれば「耐候性」があると言えるでしょうが…現実問題、写真家にとってどんなメリットだと言うのでしょうか?一方、メーカーBのカメラは、メーカーAのそれよりも(実際にはそうであるのに)耐候性があるようには文字面からは読み取れません。

これと同じことが、1つのメーカー内での製品ライン内にも当てはまります。ハイエンドモデルが売りに出される時、それに「耐候性あり」と記述されるのが業界の常です。しかし、エントリーレベルに分類されるモデルでは、これは一般的ではありません。メーカーCとメーカーDの初心者向けモデルの間には「初心者レベルのユーザーにとっても重要な大きな違い」があるかもしれませんが…そうであるかどうかを実際に消費者が判断することはできません(カメラ初心者の方々も、自分のカメラが小雨や水しぶきに耐えられるかどうかを気にかけるものです)。

「水と電子機器の相性の悪さ」であれば誰もが心得ていますが…さまざまな程度の違いのある悪天候の中でカメラとレンズを使用することについて、具体的にどの程度の心配をする必要があるのでしょうか?あるモデルであれば文字通り「一緒にシャワーを浴びる」ことすらでき、またあるモデルは、わずかな水気でさえ警戒しなければならない。

耐候性はありとあらゆる写真家にとって重要なテーマである。もはやこれは明らかです。しかし、典型的な写真撮影のシーンに当てはめられる基準は存在しないのです。

 
こちらが私たちの考案した【バージョン1.0】の散水機(複数の水滴散水口の組み合わせが1組に)です。これらの小さな散水口は、もともと農業における様々なシーンで使えるように設計されたものであり、耐候性試験においては制御が非常に困難です。何ヶ月もの試行錯誤の末に開発したオリジナルの【バージョン1.5】散水ノズルのほうがずっとうまく機能するでしょうが…現段階では【バージョン1.0】を使っており…最低でも、一貫性のある結果は獲得できています。

「既存の耐候性試験の基準は写真撮影においては役立たず?」…その真相とは

写真業界専用に耐候性試験の手順を設けるべきか。明確に定義され、高い知名度を誇る基準をただ使用すればいいのか。このような類の問題提起は的を得ています。

最も広く使用される防水・防塵規格と言えば、国際規格EN 60529(注: 欧州での呼称はIEC 60509:1989、英国での呼称はBS EN 60529:1992)により定義される保護規格であり、「保護性能IP67」等として広く知られる「IP」規格もこれにあたります。このような言葉を耳にした時、ともすると「自然環境での使用に強い耐性を持つ電化製品」というイメージを抱くでしょうか (例を挙げるなら、Apple社製のiPhone Xは現にIP67という保護性能評価を取得しています)。

ただし、IP規格(防水・防塵規格)には問題点も。ほこりや液体への曝露が非常に激しい可能性はあるものの「その暴露の時間に限りのある、産業または商業施設用電気機器向けに考案されている」のです。そのため、実際の写真撮影の現場には同じことが当てはまるとは限りません。

例えば、IPX1で規定される最低レベルの水との接触は1時間に60mmの雨とされていますが、これの許容時間はたったの10分です。写真家が撮影のために、豪雨の中に飛び込み、そこで数分を過ごす可能性はありますが、ほとんどの人が日常的に経験することとはかけ離れているでしょう(そもそも…そこまで激しく雨が降っているなら、どんな被写体であろうと写真撮影は中止になるはずです!)。

それよりも軽い雨の中で、ずっと長い間、写真撮影に興じる可能性の方がはるかに高いわけです(ハイキング中に雨の風景を撮影する、雨と自然の写真を撮る、雨の日にスポーツの試合を観戦しながら撮影するといったシーンをご想像ください)。

つまり、穏やかな雨の中で何時間にもわたって使っても問題なく機能する…そんなカメラやレンズが集中豪雨を前にして、為す術もない可能性があります。翻って、短時間の強烈な雨の中でも平気なカメラであっても、少量の水に長時間さらされることで問題が生じる可能性すらあります。

IRの提唱する耐候性試験【バージョン0.1】

前述のように、弊社は「Camera of the Year」アワードに先立ち、初の耐候性試験への取り組みを開始しました。

最初の試験では、2種類のスプレーノズルと庭用ホースを使用して、(中程度の強さの)自然の雨と霧を再現することに挑戦しました。結果的に、1つは「にわか雨」に、そしてもう1つは「細かい霧」に。どちらも自然に遭遇するものよりも強くなってしまったので、調整のために、上空に向けて噴射し(雫は数十cmの高さから落下するので、ホースのノズルではなく重力により速度が決まります)、それを前後に振って「降水率」が自然の雨や霧に近くなるようにしました。

試験中、何回か水の噴射を一旦停止して、カメラを操作をしてみました。操作の内容は全て同じものの繰り返しです。

尚、この試験ではカメラをメッシュ状の表面のテーブルの上に(撮影者が通常構えるのと同様にレンズが正面を向くようにして)立てて置きました。水は上からカメラに降り注ぎます。カメラの周囲に水たまりができることはありません。

 
最初に着手した耐候性試験はかなり「とりあえず挑戦」というレベルでしたが、それでも実際に対象とした複数のカメラ間での違いを区別するのに役立ちました。ただし、あまりうまく管理されていなかったり、再現性がなかったり…という反省点も。最新(現段階で実際にやり終えたもの)の挑戦は【バージョン1.0】です。これは、すべてのカメラに同等に適用でき、制御された、繰り返し再現可能な試験になりました。

この試験の結果は、興味深く価値あるものに。4つのカメラの反応がまったく違ったのです。影響が全く出ないものから、完全に機能しなくなったものまで、結果は多岐に渡ります。この試験により対象のカメラの耐水性について、非常に明確な違いが確認できましたが、これには多くの制限も伴いました。

第一に、自然の雨と霧の再現に挑戦し、試験に選んだ4台のカメラをすべて同じ環境にさらすことはできたものの、この手法では「降水量」や「カメラがさらされた水の総量」が測定できませんでした。そのため、試験に使用した特定のカメラのみを比較することには成功しましたが、今後のことを考えると再現性が低く、加えて、自然に起こり得る天候をどれほどうまく真似できたかもわかりません。

また、カメラをテーブル上に完全な水平状態で設置すると、トップパネルに水が溜まる可能性があります。三脚に取り付ければあり得る話ですが、現実的に「カメラが完全な水平状態を保ち、その上に水がたまる」ことはほとんどありません。

第一回目の耐候性試験ではカメラには「上方からのみ」水がかかりました。実際には、カメラマンは通常のまっすぐな(水平に近い)状態での撮影に加え、縦向き(「グリップが上になる」、「グリップが下になる」の両方)でも撮影することになります。カメラはまた、ネックストラップやホルスターから(レンズが下に向いた状態で)ぶら下げられることも多く、その間には背面が長時間雨にさらされる可能性があります。

メーカーの方々とのミーティングや討議を経て思うこと

第一回目の耐候性試験の後、私は自然の降雨量の特性(具体的には水滴の大きさと速度、降水量の分布など)について多くの調査を行いました。2018年2月下旬、横浜にて開催された「CP+2018」の後、複数のメーカー勤務の方々(上級技術者)と面会し、フィードバックを頂戴し、各社ではどのようにカメラが試験/評価されているのかを学び、そして業界全体で活用することのできる、カメラのための耐候性試験実現のために何ができるのかについて意見交換を行いました。

このお話の機会は、極めて興味深く生産的な時間となり、おかげさまで、各メーカーが「どのようにカメラの耐候性を高めているのか」、「典型的なユースケースとしてどのような天候を想定しているのか」そして「社内でどのようにカメラを試験しているのか」について多くを学ぶことができました。

残念ながら、ご想像のとおり、頂いた情報の多くは各社独自の内密なものであるため、そのほとんどを読者の皆さんや他のメーカーの方々と共有することはできません。ただし、弊社がカメラの耐候性を計測するための試験や手法を開発する上での(物凄く)大きな助けとなりました。(以下で詳しい内容をご紹介しますが、カメラの<天候に対する>気密性の測定は、一筋縄ではいきません。少なくとも私が当初思い描いたようには行っておらず…かつての「ひらめき」は実現不可能であることが判明しています)

この各所からの聞き取りから得られた最も芳しい発見の一つは、皆さんからの反応の一貫性です。お話の機会を頂いた全ての方から、本質的に同様の支持が得られたのです。耐候性についての独立認証プロセス誕生を歓迎する「ほとんど普遍的とさえ言える」世論が存在しています。

あるメーカーによる耐候性試験に対する取り組み

オリンパスの方から、なんと社内での試験方法に関する情報の公開に対して許可を頂きました。同社では、製品ライン内で「耐候性」を主張するかどうかの区別を設けているそうです。全天候型(より適切には耐候性)として販売されていない製品は、耐候性を気にせず、通常の製造品質基準に基づいて構築されています。そのようなモデルには、散水暴露試験は実施されていません。

一方で、同社が「耐候性を持つ」として売り出すカメラにはかなりの試験が実施されており、結果として非常に高い防水性が実現しています。

先に述べたように、「IPX1で規定される最低レベルの水との接触は、合計10分間、1時間60mmの雨」とされています。これはかなり極端な量の雨であり、現実として、撮影シーンでそのような雨の中に立つことは稀でしょうが…オリンパスはこのレベルを採用するにとどまらず、なんと「1辺につき10分間」その量の水にカメラをさらしています。つまり、カメラをその極端な量の雨に合計60分もさらしているのです。

 
オリンパス本社では、研究開発部長の西尾幸作氏に(中身の“徹底された”封止がわかるように)分解したE-M1 Mark IIを見せて頂きました。この画像からは、本体の右側とトップパネルの間を封止するパッキンが見て取れます。

それどころか、水との接触後に実施される同社の評価基準も同様に厳格です。散水暴露試験の後、技術者はカメラを徹底的に分解します。この最中に誤ってカメラ内部に水が流れ込まないように細心の注意が払われます(たとえカメラの気密性が完璧であっても、パーツの接触部分にある隙間などに水が残ることがあります。分解の際にそのようなちょっとした水がカメラ内部に入らないように気をつけなければなりません)

同社の基準は次の通りです。もしカメラ内にわずかでも水の痕跡が見つかれば、それは失格とみなされ、設計段階にまで戻り、密閉性の改善が図られます。

これには、正直なところ驚愕です。実際にほとんどの写真家が遭遇するであろうあらゆる状況よりも過酷なものが想定されています。私が今まで目にしてきたすべてのE-M1についてのレポートやYouTubeに投稿されたビデオ(なんとそこには、水洗いでカメラの泥を落とす例が)もこれで説明がつきました。

繰り返しになりますが、私の方から、他のメーカーの方々から頂いた手法についての情報を共有することはできません。ただ、オリンパスで採用されている試験は、他のカメラメーカーから聞いたあらゆる情報をはるかに凌駕しています。

オリンパスが正式に気密封止を意識したモデルで採用しているレベルから、一般的に市場に出回っている最も低価格なエントリーレベルまで、気密性には幅広いバリエーションがあります。加えて、初心者向けモデルの中でさえ、多種多様なアプローチが実施されているのです。(あるメーカーの方からは、IRに全面的な耐候性試験を実施して欲しいとの連絡がありました。先方はそれが売り出すローエンドモデルでさえ、競合他社の類似モデルよりも耐水性が高いことを示せると考えていたようです)

 
プロでなかろうとも、時に、かなりの悪天候の中で写真を撮ることはあるので、耐候性試験は適度な量の降水量を想定する必要があります。

真の「合理性」を追い求め…(どれだけの期間、どれだけの量の水を指標とすべきか)

これはもちろん重大なテーマです。それぞれの写真家によって、実際に写真を撮影する時の天候は異なります。それでは…一体どのようにして「実世界に即した」汎用的な基準を設けることができるのでしょうか。最も基本的な問いはこのようになります。どれだけの量の水、そして、どれだけの時間を設定すべきなのでしょうか?

カメラの耐候性は、ある程度「降水量と降水時間の関数」とも言えますが、ただしこれが規則的な線形を描くことはほとんどありません。つまるところ…わずかな水に長時間さらされることは、たくさんの水に短時間さらされることと恐らく同等ですが「1時間に1cm」は「6分間に10cm」とは効果が大きく異なる可能性があります。

程度と時間の関係は…写真家自身が「どのような環境で我慢することができるか」そして「自分の機材をどのような状況にさらす可能性が高いか」に顕著に現れます。1時間4cmの土砂降りの中に数分いることはあるかもしれませんが、何時間もそこにとどまることはないでしょう。一方で、1時間0.1cmの霧雨の中であれば、苦もなく1日を過ごすことができるはずです。

弊社が耐候性試験の手順を開発し続ける中で、これについての解釈は徐々に進展していくはず…そう期待しています。とは言え私たちは【バージョン1.0】と銘打ったものについては、「1時間1cmの雨に35分さらされる」ことを降水量の基準としました。

補足:アメリカ在住の読者の方々のために説明を加えますと…これは1時間あたり約0.4インチの雨となります。なかなかの量の雨ですが、土砂降りからはほど遠いです—激しい雷雨は1時間1インチに値し、時速2、3インチはかなりの量となります。

「どんな種類」の水を考慮すべきなのか

もちろん湿気のあるものですが…。

(冗談は抜きにして…)実際のところ、ミネラル含有量に関して言えば、水の性質は大きく異なる可能性があります。ある例では、H2O分子のみという純度の高い実験レベルの蒸留水が使われ(それと対局をなす)、他の例では、死海の塩水が使われるかもしれません。通常、海水にはかなりの量の塩が含まれていますが、(淡水である)川や家庭用の水道水であっても、そこにはミネラル分が溶解しています。少量の大気中のほこりや、工業地帯で考えられる大気汚染物質を除けば、雨水はかなり純粋です。

 
弊社システムでは水が循環する仕様です。地元の食料品店へ最初に1回買い出しに走れば、それだけでOKです。

これが重要な理由はズバリ2つあります。第一に、ミネラル分を含む水は導電性が高いため、内部の接続がショートする可能性が高くなります。少量でも誤作動を招くことも。第二に、水が乾燥/蒸発すると、そこに含まれていたあらゆるミネラル分が「その場に取り残される」ことになります。このミネラルには導電性または絶縁性のどちらのパターンもあり、それが残留する場所によっては、どちらであっても問題を引き起こす可能性があります。導電性ミネラル(例えば塩)は、内部回路の接続をショートさせて…カメラを完全に葬ることも、「シャッターボタンが常に押されているように」カメラに錯覚されることもできます。絶縁性ミネラルが(シャッターボタンのような)スイッチの接点に堆積すると、それを押しても、カメラはその操作に反応しなくなってしまいます。雨水や蒸留水は、それが蒸発する時にその場にミネラル分を残しません。

さらに厄介なことに、特定の種類のミネラル分はカメラの回路を腐食させ、カメラそのものに永久的なダメージを与える可能性すらあります。

前述の通り、雨水は通常かなり純粋であり、家庭で手に入る蒸留水はこれを再現するのに適役だと考えられます。また、試験に使用するカメラやレンズの永久的な損傷は避けたいことからも、蒸留水を使用することに異論はありません。

(メモ:暴風雨でカメラが濡れて故障してしまった場合には、ボディキャップを外して、バッテリー、カード類を取り外し、オーディオ/ビデオ/電源接続のフタを全て開いた状態で、乾いた場所に置いてください。濡れてしまったカメラが完全に乾くまでには1週間以上かかることがあります。そして、純粋な雨水以外の水分はカメラにとっての「死刑宣告」になる可能性がありますのでご注意ください。ただし雨で濡れただけであれば、乾燥で無事に故障が直る可能性は大いにあります)

【バージョン1.0 耐水試験】

上記のすべての事項を取り入れ、【バージョン1.0】と銘打った散水暴露システムを考案しました。まだ完璧とは言えませんが、これを使えばカメラを高いレベルの制御のもと一貫した量の雨(正確には雨を模倣したもの)にさらすことができます。

散水機【バージョン1.0】

このシステムの心臓部となるのは、30 x 30 cmのグリッドに配置された、複数の水滴散水口です。これはIECのIP試験で使用される20 x 20 cmのグリッドよりもやや密度が低いですが、使用する全体的な降水量が少ないことを考えると、より「まばら」な配列が妥当であると判断しました。この方向性は必要となる散水機の数に大きな違いをもたらしました。30 x 30 cmでは、対象の領域に水を降らせるために256組の散水機が必要ですが、20 x 20 cmの間隔では625組も(!)必要になります。

【バージョン1.0】のシステムとしては、農業用の散水機を採用しました(これの水量を弱めて/慎重に調整して使用)。通常、この散水機はかなり高い圧力ではるかに多い水量を噴射するためのもので、わずかな水量で制御することは非常に困難です。そこで、これの管理のために、独自の策をいくつか講じました。その中でもシンプルなものの1つが、「水圧に規則的な強弱をつけること」です。これは実際にかなりうまくいっていますが、弊社オリジナルの【バージョン1.5】散水機の製作にも取り組んでいます。わずかな水量で細かな調整ができ、適度な水圧も維持できる代物に仕上がるはずです(経過としましては、順調に進んでおります。1つ単位での作業になりますが、長く圧倒的に細かな穴を搭載した散水機を作る方法を考案しました。課題は「これを、完全なシステムに必要となる数百という散水機の製作が可能なレベルにまで拡張」することです)。

(改善に寄せる思いは強いものの…)現段階で手元にある散水機とポンプシステム(散水機のために構築済み)を使えば、プラスマイナス数パーセントという精度で総暴露量—つまりカメラをさらすことになる水の総量—が調整できます。

現在の散水機(散水機を組み合わせた状態で)がカバーできる範囲は18 x 18インチ(これは「0.5 x 0.5m」をわずかに下回るほどの広さです)となっており、今後の試験対象となるカメラ/レンズにとっては十分すぎる面積です。

 
システムの各部分に給電するために、実験室の3つの電源を使用しています。この「正確に管理された電圧」は給水を制御するための鍵です。

水量の管理と総暴露量の確認

前述のように、弊社では「1時間に1 cmの雨」に相当する水量で試験を行っております。ともすると、全体の話の流れからご推察頂けるかもしれませんが、私たちは試験が「再現可能」で「一貫している」ものになるようにあらゆる手段で全力を尽くしています。降水量の制御だけで終わることなく、結果の監視も徹底します。つまり、カメラが「実際に設定された量の水にさらされているかどうか」の確認です。

 
この小さなダイヤフラムポンプが、現在のシステムを動かす立役者です。かなり高い圧力を供給するよう設計されていますが、標準的よりはるかに低い電圧で動かすだけでも、現在のシステムでは十分に機能しています。

「降水量」の制御は、一連の散水機に水を供給するのに使用するポンプシステムにかかっています。現在、弊社では研究室からの電源で動く小型の直流駆動ダイアフラムポンプを使用しています。その水量と印加電圧の関係を把握し、規則正しい駆動電圧とデューティ比の調整を組み合わせ、必要な量の水を正確に供給することができます。

率直に言えば、現在の配水システムよりももう少し決定的な(つまり「操作が結果により正確に反映される」)何かを目指しています。現在のシステムでも十分に機能していますが、ポンプ機構の回転ごとに正確な排水量を調整することのできる容積式ポンプへの切り替えを計画しています。これは【バージョン1.5】の一部として、先に触れたオリジナル散水機と組み合わせられます。これが実現した暁には、誤差1%の精度で水の放出速度と総量の両方を継続的に制御することが可能になるはずです。

これに比べると総散水量を監視する方がわずかに簡単です。ターンテーブルの上にカップを置きます。正確には、「試験対象のカメラと同じ中心からの距離を計測し設定された位置」に(正確に口径を測定した)プラスチック製カップを設置します。試験終了後に、そこに溜まった水の量を測定します。測定には高精度の実験用のはかり(総水量を数百分の1mlの精度で測定可能)を使用します。現段階の複数の散水機、ポンプで構成されるシステムでは、各試験の総水量をプラスマイナス数%の誤差内で測定できます。

 
実験室の“はかり”を使えば、試験中に供給される水の量を0.01mlの誤差で測定することができます。複数回の実行にわたって、給水量は、目標とする「1時間に1cm」という基準値から2〜3%しか変化しませんでした。

散水の高さ

雨の滴は非常に高いところから落ちてくるので、それが地面(またはカメラ)にぶつかるときには、ある程度の速度を持っていることになります。耐候性の観点から、より速い速度で落ちてくる雫(接触時により大きな力が加わる)に耐えるのは、数cmのところから落ちる雫に比べてより困難です。カメラやレンズに優しく滴り落ちる程度の水滴には、空から落ちてくるものよりもはるかに容易に対抗できます。

水滴の終端速度(最大速度)を滴のサイズの関数として計算したところ、中程度の大きさの滴でも6フィート(約2m)落下しただけですでに最大速度の70%以上に達することがわかりました。より小さなサイズの滴(直径0.5mm以下)では最大速度が下がり、それに達するまでの時間は短くなりました。

 
システムの「身長の高さ」はかなりのもので、これにより、試験対象のカメラに当たるまでに水滴には十分なスピードがつきます。散水機は、カメラの約6フィート(およそ1.83m)上空にあります。

そのため、試験の際には、散水機のセット(複数の散水機をまとめたもの)を試験対象のカメラの5〜6フィート(約1.5〜2m)上に設置しました。こうすることで、滴が自然の雨の雫に近い速度でカメラに当たります。

雫の大きさに関する問題

また「妥当な範囲内で滴のサイズを設定すること」についても懸念が。雨は、通常さまざまなサイズの滴から構成されますが、ほとんどの場合、ノズルから放出される(滴り落ちる)ことにより生まれる滴はこのどれよりも大きくなってしまうのです。ピペットから雫を垂らすシーンをご想像ください。表面張力でその先端に(それが非常に小さいとしても)液体がとどまり、雫はどんどん大きくなります。

これと同じ原理で、正式なIECの「IPテスト」で使用される散水機(ドリッパー)でさえ、弊社【バージョン1.0】散水機セットと同様に、かなり大きな滴を生成します。(あるカメラメーカーの方に、弊社の前回のバージョンの散水システムを紹介させて頂いたところ「水風船」のようだというコメントを頂戴しました…)

小さい滴よりも大きな滴の方がはるかに強い力が加わることになり、この差異は由々しき問題です。大きな雫がある物体にぶつかると、その表面には大きな圧力がかかります。結果として、水が小さなひび割れに入り込んだり、(小さな滴であれば貫通することのない)バッフルタイプの気密構造の周りに水が押し込まれたりします。

これにはいくつかの方法で対処しましたが、中でも重要なのは「拡散構造を構築することで、試験装置に降り注ぐ途中の段階で大きな水滴を細かくすること」です。上にあるシステムの画像から(ネームプレートのすぐ下をご覧ください)分散構造をご確認いただけます。(お詫び:申し訳ありませんが、拡散構造の詳細は、弊社独自の設計ということで公開を控えさせて頂きます)

弊社の現段階のシステムから作り出すことのできる滴のサイズ(正確にはサイズの範囲)を正確に測定したことはまだありませんが、おおよそ「霧のような粒子」から「(私自身の判断で)適度に大きいと思われる」程度です。全体としては、当システムから、自然の雨を模倣するかなり出来のいい状況が作れていると実感しています。

水滴サイズのランダム化

IP保護規格の試験からは「試験対象のデバイス(カメラ)を散水機セットの下で回転させること」をそのまま継承しました。カメラの回転なしでは、たまたま水滴散水口の真下に位置するカメラは、散水口の間(つまり隙間の部分)にあるものよりも、はるかに多くの水にさらされる可能性があります。これを防ぐために、ターンテーブル上のL字型の支えに三脚を設置し、そのボールヘッド(自由雲台)に試験対象のカメラ/レンズを取り付けます。試験中、カメラはターンテーブルの中心から少し外れた場所に配置されるので、滴はその表面にランダムに落ちることになります。弊社で使用するターンテーブルは、約3rpm(20秒で1回転)の速度に設定されています。

 
試験対象のカメラはボールヘッドに固定されているので、規定の手順に従いさまざまな向きに簡単に配置できます。土台部分を含めたカメラは、ランダムなパターンで雫を浴びられるように散水機の下でゆっくりと回転するターンテーブル上に置かれます。

カメラの角度

暴風雨の中での撮影をご想像ください。撮影の仕方に応じ、さまざまな角度からカメラに雨が降り注ぎます。多くの場合、カメラは「ランドスケープ(横長の写真を撮影)」モードのままですが「ポートレート(縦長の写真を撮影)」モードで撮影する時は、グリップの部分が上に来るか、もしくは下になります。最後に、カメラにネックストラップが付いている場合、ある程度の時間、そのカメラは下向きにぶら下がり、結果的に雨はその背面に当たるはずです。そして、空から降る水にさらされないカメラの唯一の部分は底面です(補足:カメラを濡れた場所に置くと、当然底面が濡れることになりますが、現段階では私たちはこれを試験に含めていません)。

前述の35分という時間は奇妙に思えるかもしれません(…なぜ30分や40分といった切りのいい数字ではのか…と思いませんか?)。どういうことかと言いますと、この数字は「複数の特定の角度を試験するため」そして「それぞれの角度で一定の時間の試験を行うため」に導き出されました。

個々人により、どの向きにどれだけの時間を費やすかにはバラツキがあるはずです。しかし、ここはいくらか恣意的に、合計試験時間に対して「ランドスケープ=およそ55%」、「(グリップが上、下)それぞれのポートレート=およそ15%ずつ(計30%)」、「下向き=15%」というパーセンテージを振り分けることに決めました。

この数字は言うなれば独断と偏見の結果です。ただ、同時に「合理的な思考回路に基づいた決断」であると私たちは考えています。そして「ランドスケープに時間の大部分を費やす」という方針により「ポートレートにその座を譲るよりも、はるかに試験の過酷さを確保する」ことができます。これは純粋に、カメラの上面には、2つの側面のどちらよりも、はるかに多くのコントロールボタンやダイヤルがあるためです。

カメラを水にさらす時間を考案する際には、大まかに30分を出発点としたことから(それに調整を加えて)今回の35分という数字にたどり着きました。

  • ランドスケープ:10分
  • グリップ上向き:5分
  • グリップ下向き:5分
  • レンズ下向き:5分
  • (二度目の)ランドスケープ:10分
  • 水への総暴露時間:35分

「35分は試験に適した時間なのか」という疑問

只今ご紹介した35分間の試験は、現段階の出発点にすぎません。耐候性はカメラによって大きく異なるため、(今日のカメラで見られるすべての耐候性を網羅するためにも)試験時間を長くすることも短くすることも視野に入れています。最初の数回の試験では「気密性能に気が配られているハイエンドのカメラでは(その商品の説明や「主張」にあるように)全く問題がなく」、一方で、「気密性能が無い/ほとんどないエントリーモデルのカメラでは多くの場合問題が発生」しました。

さまざまなカメラを試験しデータを蓄積する中で「テストをどのように拡張すべきなのか」についてのより明確な考えを持てるようになり、高い可能性で試験に対する多層的なアプローチも可能になるでしょう(たとえば、特定の試験に数時間耐えることができるカメラもあれば、同じ試験に15分でさえ耐えられないカメラもあるはずです。すべては時間とテストの繰り返しのみぞ知るところでしょうか。その結果に応じ、試験の拡張を進めます)。

 
規定の手順に従い、試験を通して2分30秒ごとに(コントロールの異なる組み合わせから:つまり実際に押すボタンや触るタッチスクリーンの違いはあり)すべてのカメラに結果として同じ操作パターンを適用するようにしています(操作中も散水機の下でカメラを保持することで、カメラは常に水にさらされ続けます)。

試験中には実際にどのようなことを行なっているのか

試験中「カメラはただ受動的にそこに佇むだけではない」…この点に留意することが重要です。散水機セットの下で回転させるだけでなく、試験全体を通して2分30秒ごとにカメラの操作をします。これは「ボタンを押したりダイヤルを回したり」といった操作が付随する方が、静止しているだけよりも、(耐候性の観点からカメラにとって)より厳しい状況になるだろうという理論に基づき行われています。

カメラの向きと同様に言えることですが、さまざまな状況下で最も使用される操作の種類はそれぞれのユーザーごとに異なります。また、ともすると、数分おきに特定の操作を実行するだけでは、暴風雨の中で活発にシャッターを切る人と比べるとかなり使用量が少なく「控えめ」かもしれません。これには理由があり「コントロールをいじる時間」と「カメラを規定の角度に維持すること」との間のトレードオフの関係に直面したためです。カメラを操作する間も、(規定の水量にさらされるように)それを散水機セットの下で維持していますが…「調整のためにカメラを手に持つ」という動作は行っています。この時、カメラは三脚に取り付けられているときとは異なる角度になります。

「おそらく最も一般的だろうと思われる」カメラの操作について考え、それを手順に組み込みました。操作間には頻度の違いがあります。ここでも、私たちの判断はやや恣意的なものとなりましたが、その背景にはしっかりとした意図があります。選定された特定の機能は「現実の特定の使用パターンに正確に一致するように意図されたわけではなく」むしろ「より合理的な中間値」を目指しました。ここでの要点はこちら。特定のカメラのユーザーインターフェースを鑑みて(それが、肯定的であれ否定的であれ)機能を選んでいるわけではなく、指定したいくつかの機能を規則的に作動させています。

これに付いては、もう少し詳しくお話をさせて頂きます。カメラにより、ボタン、ダイヤル、さらにはタッチスクリーンの組み合わせに対して、異なる機能が割り当てられています(雨天時のタッチスクリーン操作も考慮すべきテーマです。雨に濡れるとうまく機能しないこともあります)。私が出会ったあるカメラエンジニアの方曰く「タッチスクリーンを使用すれば、物理的なダイヤルやボタン周りの「封止を動かすことなく」さまざまなカメラの機能が使えるとのことです。先方の仰る通りタッチスクリーン付きのカメラには耐候性における固有の強みがあるかもしれません。しかしカメラ本体のさまざまなボタンをランダムに押すだけでは、その利点は考慮されなくなります。


このビデオでは、既存のシステムの典型的な実行の様子を数分間にわたりご紹介します。現実的な撮影シーンを再現するために、規定の操作手順を踏んでいます。

この点を考え、以下のような、試験中にカメラの一連の機能を評価するための手順を考案しました。試験中のカメラに対して、この手順を2分30秒ごとに実行します。 ちなみに前述のように、この操作の実行中には、カメラが散水機セットの下にとどまるように細心の注意を払っています。

  • シャッター作動:2分30秒サイクルの奇数回にて単射モードで5回撮影

  • 2分30秒サイクルの偶数回にて連写モードで3秒間シャッター押下

  • 全サイクルでフロント/リアコントロールダイヤルを操作

    (これにより通常、シャッタースピード、絞り、露出補正など、頻繁に使用されがちな機能の制御が行えます)

  • <奇数サイクルでの操作>

    • クイックメニューの操作(オン、前後に移動、選択、設定の変更、元に戻す)

    • AFフレームの選択(ダイヤル、ジョイスティック、タッチインターフェースなどを介して実行)

  • <偶数サイクルでの操作>

    • 再生モード(再生を有効にし、次の/前の画像に移動)

    • PASMモードの変更

  • 2サイクルごとに(つまり5分間隔で)次のように交互に切り替え

    • ISOの変更

    • カメラのオン/オフ

「2分30秒ごとにコントロールをオンにする」という選択は少し恣意的でした。試験時間中、ほとんどずっとカメラを指定した向きに維持したいものの…少なくともある程度頻繁にコントロールを操作したいところ…。そのようなバランスを考えました。また(上で触れたように)複数パターンに分割し、水にさらされる合計時間をおよそ30分にすることも狙いでしたので、2分30秒というサイクルは最適解のように思えます。

結果の精査〜合格/不合格の一歩先へ〜

続いては、異論の余地なく耐候性試験の最も難しい部分、すなわち「カメラやレンズの気密性」の評価です。異なるカメラ間での複数のレベルの耐候性を区別するためには、これは特に重要な項目です。これにはかなりの時間を注ぎました。その結果、直面したのは、(今の所は…)袋小路に他なりませんが。

耐候性を語る上での最も基本的な評価基準を挙げるとすれば…「カメラが機能しなくなるかどうか」でしょう(あるいは、完全に命果てないまでも、異常が発生したかどうか)。これはあまりにも大まかな尺度です。もし相当量の水がカメラ内部に入り込んだにも関わらず、試験中に動作に影響が見られなかったら…どうでしょうか?(試験の後)カメラの向きが変わっただけで、または、水がより奥深くまで浸透した時に故障する可能性があります。それでは、通常は問題にならないほど小さな水の粒が、たまたま最悪のタイミングで、最悪の部位にまでたどり着いたら…どうでしょうか?

理想的には「カメラが機能しなくなったかどうか」ではなく「どれだけの水がカメラ内に入り込んだのか」を把握したいものです。

そうですね…「どのくらいの」水がカメラに入ったのか。これを一体どうやって知ることができるのでしょうか?その時です。こんな考えが浮かびました。カメラに入り込んだ水の「重量」はどうなるのだろうか。

これは、ともすると素晴らしい道標かもしれません。カメラに入り込んだ「少量の水でさえも検出できるほど正確に」カメラの重さを計量できれば、どうでしょうか?

ここから、多くの試行錯誤を経て、ついにカメラにおける「最大2000グラム〜最小0.001グラム」の質量の違いを計量できる解決策を思いつきました(思わず歓喜です!)。なんと素晴らしい進歩でしょう。そう思いたいところですが…。

 
こちらは、気密性の高いバッテリーコンパートメントのドアです(このケースではNikon Z7)。「ここにあるような種類の素材は、それ自体が水を吸収してしまう」というコメントをあるエンジニアの方から頂くまで、私は水の侵入を測定する完璧な方法を見つけたものと思い込んでいました…。密閉素材があれば水の通過は防げますが、その発泡材自体が水を吸収することで重さが増してしまうのです。

上級カメラエンジニアの方との議論から、ある大事な学びを得ました。カメラを密閉するために多くの場合「発泡材が使用されている」とのこと。接合箇所や隙間を密閉するのには非常に効果的ですが、発泡材そのものが水を吸収します。カメラ内部への水の浸入を防ぐためには完璧です。しかしこれ自体に水が入り込んでしまうのです。そして湿ったときには重くなります。あるメーカーの方からは(試験のために)同社発売のカメラに実際に使用されている密封用発泡材のサンプルを頂きました。そして…「1つの発泡材でさえ十分に水分を吸収」しカメラが漏れたような重さになってしまうのでした。

 
すべてのステップが規定通りのタイミングで実行できるように、試験中には、試験手順のハードコピーを使用しています。試験の中で見られた異常な動作については、随時シートにメモを取ります。各試験の様子をオリンパスのTG Trackerカメラ(もちろん防水です!)でビデオに収めるので、「問題がいつ発生したのか」、「エラー表示がどのようになったか」などについての疑問があれば、後から参照できます。

結論〜現段階では(残念ながら)おおよそ合格 or 不合格で判断…〜

そうです…何ヶ月もかけて「超精密カメラ計量システム」を開発した私の努力は一体。すべて無駄だったようです。「カメラの中に入り込んだ水」と「単に発泡材に染み込んだ水」を区別することができませんでした。「水の浸入を測定するために質量の増加を使う」という考えを完全にあきらめ訳ではありません。ただ、発泡材に染み込んだ水を切り分けて把握する方法を見つける必要があります(考えはありますが…今のところ、そのアプローチは後回しです)。

今のところ、機能の試験と目視による検査に頼る他ありません。

目視検査の役割

基本的な合否判定、合否判定以外にも、カメラを水にさらした後に慎重に検査するだけで、カメラの耐候性についてかなりのことがわかります。システムを通し半ダースかそこらのカメラを調べてきた結果として、それぞれのカメラの気密システムには顕著な違い(バッテリー、メモリーカードのような容易にアクセス可能な領域でさえ)があることがわかりました。(マウント面に耐候性のあるレンズである限り、レンズ接合部からカメラ本体に水が浸入するケースは一度もありませんでした。そのため、レンズ接合部からの水の浸入という可能性はほとんど除外して考えられます)

 
トップパネル右側にはシャッターボタン、そしてその他の多くのコントロールボタンがあり、水の侵入があると、多くの場合、バッテリーコンパートメントにその痕跡が見つかります。こちらにあるのは、試験後のSony A7 IIIのバッテリーコンパートメントを完全に乾燥させた状態の写真です。

ただし、バッテリーやメモリーカードのコンパートメント内部に水が入っていることが何度かあり、時にはオーディオポートやUSBポートを覆うフラップの向こう側にまで入り込んでいました(ちなみに後者は非常に稀なパターンです)。

バッテリーコンパートメントは通常、カメラの右側(シャッターボタンやその他のコントロールボタンが位置する場所)の下にあります。これらのコントロールボタンなどに対応するようにしてカメラ上部にはたくさんの開口部があるので、これが漏れを見つけるための一番のエリアになることは理にかなっています。これはカメラの操作にとり最も重要な場所でもあるので、ここでの水漏れは問題を引き起こす可能性が最も高いと言えるでしょう(私たちが実際に直面した典型的なカメラの障害は、シャッター機能の低下、そして絞りやシャッタースピード設定が困難/不安定になることです)。


 
ホットシューカバーは言うまでもなく、気密性を提供するものではないので、ホットシューを持つことは、カメラにとっては(耐候性の観点からは)弱点になり得ます。こちらにあるのは、試験後のSony A7 IIIのホットシューで見つかった水の画像です。これにより「取り付けたアクセサリが認識できない」という旨のメッセージが表示され、(致命的な故障ではないものの)多くの厄介な問題が発生しました。実際には何も付けられていないにも関わらず、この水によって「何かが装着されている」というカメラによる勘違いが発生したようです。幸いなことに、ちょっとテープを貼るだけで、またはNikonのBS-3ホットシューカバーの使用で、問題は簡単に改善されました。

また、バッテリーやメモリカードのコンパートメント、USB、HDMI、オーディオ/ビデオなどの外部接続用ポートの周囲にあるパッキンやその他封止を丁寧に観察することで、そのカメラの密閉度を推し量ることができます。

製造業者がカメラの他の隠れた部分よりもこのようなエリアに高い密閉性を施している(場所によって程度の違いがある)可能性はありますが「ここで見られる気密性がカメラ全体の性能を物語る」と考えることは理にかなっているでしょう。そして、各モデル間にはかなりの違いが見られます。

このような理由から、現在の評価プロセスでは、試験対象のカメラにおける異常な動作を注意深く記録し(このために各試験の様子をビデオで記録)、次に分解することなく確認できるカメラのすべての部分を慎重に調べることにしています。たとえ試験中にカメラの誤動作が見られなかったとしても、バッテリーやメモリーカードのコンパートメント内に入り込んでいる微量の水にまで細心の注意を払います。
 

 
小さなDIYの電子回路と、ターンカウントダイヤルを備えた古きよき10回転精密ポテンショメータにより、ウォーターポンプのデューティ比を非常に正確に制御できます。

試験後のカメラの乾燥方法について

先に触れた通り、耐候性試験には蒸留水を使用しています。これは「自然の雨水に最も近いものを再現するため」そして、「乾いたときにカメラにミネラル分が残らないようにするため」です。

カメラがひとたび濡れてしまうと、それが完全に乾くまでには驚くほどの時間がかかります。このプロジェクトの出だしに試験を行いましたが、その結果、びしょ濡れになったカメラが完全に乾くまでに1週間は平気でかかることが明らかに。ちなみに乾燥の経過を理解するために、サブミリグラムの精度でカメラの重量を測定しました。重量は7日目を迎えた時点でも「僅かではありますが変化」していました。ただ、ほとんどの水気は5日間経過で消えたようです。兎にも角にも、中身が完全に乾くまでに要した時間には正直なところ驚きです。

 
水を用いた試験の後にカメラとレンズを乾燥させるために、私たちはRuggardドライキャビネットを使っています。非常に活躍してくれており、不意にカメラが水にさらされることのある(それがどんな頻度であっても)全ての読者の方々にこれ(そしてその他のモデルも)を強くお勧めします。

耐候性試験の後、対象として使用したカメラを(すべてのポート、コンパートメントを開け、レンズのふたをしていない状態で)ドライキャビネット(防湿庫)の中に置きました。収納ボックスに戻すか、新たな試験に使用するまでに放置した時間は最低でも1週間です。

私たちがこの段階で使用したのは80ℓRuggard電子ドライキャビネットです。これが素晴らしい性能でして、皆さんにもお勧めです。このモデルの価格は250ドルで、一度に最大10個のボディとレンズを(配置の仕方によってはそれ以上)収納することができます。Ruggard電子ドライキャビネットはソリッドステート(ペルチェ効果)除湿モジュールを採用しているので、動作中でも静かです。18〜600ℓが売りに出されています。好みの湿度に調整できますが、私たちは最強レベル(ちょうど20-25%の相対的な湿度を維持—これはかなり乾燥した空気です)で使用しました。機器の乾燥について言えば、湿度が低ければ低いほど理想的です。

湿気の多い場所や雨の多い場所で頻繁に撮影をするという方には、何かしらのドライキャビネットの使用を強くお勧めします。全く高価ではなく、最小のRuggardのモデルであればその価格はたったの130ドルです。ちなみに最小のものであっても、一度にカメラ本体とレンズを乾かすのに十分な大きさです。ある程度の機器を持っている方でも、小さめのドライキャビネット1つで事足りるはずです。というのも「熱帯雨林在住」でもない限り、ドライボックスに普段からすべての機器を収納する必要はありませんからね。濡れた機器を一時的に乾かすために入れれば十分です。

 
こちらは、【バージョン1.5】水滴散水口のプロトタイプです。開発プロセスは数ヶ月にわたり…多くの落胆と失敗を経て、このプロトタイプ(順調に機能しています)にたどり着きました。あとは、これを数百個作るだけです。

(ただし、「カメラやレンズの保管場所よりもはるかに寒い場所で頻繁に撮影する」という場合には、すべての機器を非常に乾燥した環境で管理することをお勧めします。わずかな湿気がレンズに付着してしまう可能性があります。熱帯の暑さから冷房の効いた部屋に移るだけでレンズが曇ることがあるくらいですから…居心地の良い家から氷点下の場所にまで移動すると当然、曇りが生じる可能性があります。日常的にレンズの曇りでお悩みでしたら、大き目のドライキャビネットへの投資をお勧めします)

おさらい 〜現時点での成果と今後の目指すべきこと〜

【バージョン1.0】の耐候性試験では、すでに制御の行き届いた再現性のある方法で、カメラを人工的な雨にさらすことができます。このシステムからは、自然の雨量を模倣したさまざまなサイズの雫が作られ、十分な高さからカメラに向け落とされます。さらに、水滴の速度も自然の雨粒のそれに(妥当だと思われる精度で)近づけられています。

現段階の水滴散水口の仕様には限界があり(人工的に作り出す)「雨」の水圧には規則的な変化をつける必要があります。具体的には約10秒間「雨」を降らせて、次の20秒間「雨」を止めて…の繰り返しです。開発が完了し現在量産に向けて動いている【バージョン1.5】の散水機は、連続的でゆっくりとした降水を可能にします。ただし、【バージョン1.0】の降雨に付随する強弱という性質を別にするならば、すでに試験対象のカメラに降り注いだ水の総量をわずか数パーセントの誤差で正確に制御することができます。私たちは「1時間に1cmの雨」を目指しています。これはなかなかの量の雨に相当しますが、激しい雷雨とはほど遠いものです。

 
こちらは、【バージョン1.5】散水機先端部をマクロ撮影した画像です。端に見えるくぼみは、直径0.16mmの穴の出口です。これを作るためのシステムが遂にできたので、今後は、穴の直径を半分にすることができるはずです。それにより、動作圧力がさらに上がり、水の管理がさらに改善するでしょう(私はこれを達成できたことを非常に誇りに思っています!正確に制御された一定の直径(1〜2インチの長さの0.1mmの穴)を規則正しく作ることがどれほど難しいか…挑戦してみれば、お分かり頂けるはずです…!)

実際に「どのようなカメラの操作(ボタンやスクリーンなど)が実行されるか」は当然、それぞれの写真家や撮影シーンに大きく依存しますが…弊社では(水にさらされた時の性能チェックのために)特定のカメラの操作手順を決めることにしました。現在採用されている手順では、合計35分間、それぞれのカメラが水にさらされます(補足:この合計時間の中で、カメラは5種類の角度で水にさらされることになります)。

この記事の執筆と同時期に、【バージョン1.0】のプロトコルに習い、6台ほどの異なる種類のカメラを試験しました。これまでに検査したモデルは、Canon EOS RFujifilm X-T3Nikon Z7Sony A7 III、そしてもう少し古い(機密性の低い可能性が予想される)モデルの例としてSony A7 IIです。これらのカメラのほとんどは、(ソニーのモデルではどちらも若干の不具合があり…明らかにホットシューのアクセサリ接触部分に関連しているようでしたが)良好な状態で水に耐えました。そしてその全てがドライキャビネットの中で乾燥させた後、再び問題なく機能しています。

「カメラが試験中に故障しているかどうか」を確認するだけでなく、ボディを分解せずとも確認できるカメラ内部の部品も慎重に検査(内側にちょっとした「水が入り込んだ痕跡」でもあれば決して見逃しません)します。また、カメラのバッテリーとメモリーカードのコンパートメント、各種ポートの気密構造も調べることにしています。

これまでに試験したカメラはすべてハイエンドモデルで、さらに現在の手順では水にさらされる時間は35分までです。今後は、ローエンドモデルも試験し、ハイエンドモデルについてはより長い時間、人工の雨にさらしたいと思います。

理想を言うのであれば、本質的に「機密性ゼロ」から「完璧に密封されたもの」まで段階的な耐候性の違いを見分けられるようになりたいものです。ローエンドモデルでは、現行の試験の比較的早い段階で多くのカメラが誤動作することが予想され(これについては試験の時間を短くする必要があるでしょう)、広範囲にわたる耐候性の違いを明確に区別するために、ハイエンドモデルでは水にさらされる時間を延長する予定です。

今回の記事は横浜で開催される「CP+(シーピープラス)」の直前に公開しています。私は、ショーにて、そしてそれに続く週の日本での滞在時間を使い様々な企業にお勤めの上級エンジニアの方々とお会いする予定です。昨年、各カメラメーカーのエンジニアの面々から頂戴したフィードバックは、弊社による試験開発において非常に大きな力となりました。現行の手法についてのお考えを頂けることを楽しみにしています。

読者の皆さんのお考えはどうでしょうか?耐候性や弊社の試験方法についてのご意見をお待ちしております。たくさんのフィードバックがあってこそ、カメラの耐候性に関心をお持ちの方々のニーズを満たせる、より便利で有用なテストを生み出すことができます。以下のコメント欄からお聞かせください!